2016年6月29日水曜日

Diary. 130 時の雨。




いつものお決まりの、程よく空いているカフェに久しぶりに来た。家に引きこもっているか、もしくは少なからず仕事をしていたので、
しばらく足を運んでいなかった。

夕方6時過ぎ、仕事帰りだろうか、思ったより人がいる。
一番奥の暗い席が空いている。リュックを放り投げてカウンターへ、アイスラテを頼みに行く。

ザワザワと、不快でも安心でもない雑音が続く。店員は1人で切り盛りしている。手際の良さと、愛嬌の良さがとても好印象だ。
長年、接客業をしてきた性か、どこへ行っても接客態度は気になって目を鋭くしてしまう。何か文句が言いたいわけでは無いのだけれど。

6月が終わる。これほど時が無駄に過ぎたと感じる半年は、生まれて初めてだと思う。この1年くらい、そうかも知れない。僕という人間は前進を続けているけど、きっと望んだ形では無いので、純粋に納得がいかないのだろう。

梅雨が続く。僕の生活も梅雨のごとく、曇ってジメジメと気だるいままだ。カラッとした眩しいほどの、晴天は訪れるだろうか。乾いた汗の清々しい匂いのする、落日は訪れるだろうか。

時は無情にも、季節を推し進めて行く。
押し出されるように僕も、ずるずると前へ追いやられる。擦り傷はきっと、大したことは無い。雨が降れば、全て流れ落ちるから。





2016年6月24日金曜日

Diary. 129 夜の住む街



 ラボにしばらく行ってなかったので、溜まりに溜まった未現像のフィルムを
一部持って、足を運んで見た。すると不在だった。

 めずらしいな。そう思い、電話して見ると、モノクロ師匠は体調を崩していた。

 とっさ、僕が行かなかったせいだと思ってしまった。勝手な思い込み、それでしかないけど。
出来る限りの明るい声が自然と出た。僕が売れるかどうかは先生にかかってるんだから、
弱ってる場合じゃないんですよ、なんてどっちの強がりだか分からない言葉を伝えて、
先生も、ごめんごめん、世に送り出さなきゃなんないもんね、なんて言ってくれて。

 最近、写真を撮る気にならない。向き合う気にもならない。しかし、これで再び火がついた
気がした。僕はやはり、だれかのために写真を撮り続ける人間なんだ。この呪縛のために、
幸せな呪いのために、カメラを持って街を徘徊し続けるのだ。納得がいった。

  久しぶりにカメラを持って歩く街は少しだけ緊張した。

 とりまくったフィルムは積み上がっている。プリントしたいカットも何枚もある。
でも、もっと撮る。撮りまくればいい。手段はなんでもいい。

  こうしてしか、前に歩けない。そういう不良品みたいな人間なんだろう僕は。

 じゃあ、そのようにしよう。


2016年6月1日水曜日

Diary .128 約束の目覚め

目が覚めている、意識があるうちは苦痛の袋に覆いかぶされている。
安らかなのは眠りに落ちている間だけ。
薬を飲んで横になる。
何時間でも眠る。
夢は眠りを妨げる。
眠りを妨げる何かがあるから夢を見る。
全身が毒素に浸されている。
体を動かし汗をかいても毒素は出ていかない。
活字が入り込む余地もほとんどない。
無理やり隙を見つけてねじ込む。
大した感動も衝動も無い。
勢いだけでモノクロフィルムを注文する。
いつ届くのやら分からない。
撮るのやら分からない。
働くのやら分からない。
歩けるのやら分からない。
陽は射して目を攻撃する。
雨は足に絡みつき歩みを拒む。
風はどうせ無理さと耳打ちをする。
通り過ぎる車が諦めろと騒ぎたてる。
僕は靴を履く。
黒い軍靴は硬すぎて靴擦れをする。
重い靴底はガチガチと不快に音を立てる。
和服と草履を取り戻せ。
僕はアメリカナイズされたヘタレ日本人。
欧米化されたヘタレ日本人。
ミルクを飲み、パンを食べ、ベッドに眠るヘタレ日本人。
西洋医学に希望をつなぐヘタレ日本人。
いっそ、明治か大正に生まれたかった。
インターネットで洋服を売って会社に成果をもたらすヘタレ日本人。
写真を撮ってネットに載せ、動画を作ってネットに載せ、文を書いてネットに載せ、成果をもたらすヘタレ日本人。
いっそ、小僧に生まれたかった。
後悔と言う名の闇が、皮肉に今日も僕を明るくさせる。
僕はとっても明るいヘタレ日本人。
そのうちくたばってへたり込む、痩せこけてヘラヘラと笑うヘタレ人間。
明日が来ることがこの世で一番残酷な約束。
約束は永遠に守られる。